コラム 死後処置(エンゼルケア)の手技

死後処置(エンゼルケア)の見直し

近頃、死後処置が看護技術として認められたことを受けて、 全国的に少しずつエンゼルケアの見直しを始められる病院が増えてこられたように感じます。
現在行われている死後処置は、慣習的な手技や情報が多く存在しており、 看護師の方々にとって、何が正しいのか判断が難しくなってきているように思います。
死後処置業務の見直しを考えておられる方々からは、以下のご質問を頂戴します。


【死後処置業務の見直しを考えておられる方々からのご質問】
●鼻の詰め物をするかしないか
●腹部を圧迫して便を排出するかしないのか
●お化粧の仕方
●合掌バンド・アゴバンドの装着の有無
●手を組むか組まないか


容姿や身支度に関する見直しは、患者さんへの尊厳やご家族への慰めであり、良いことだと思います。
身支度は、携わる人たちが愛情をもって、患者さんとご家族に応じてその場で判断して、対処されると良いと思います。
病院全体としては、「清潔な着衣を身につけ容姿を整える」程度のアウトラインで良いかと思います(マニュアルに表記する場合)。
ご遺体の尊厳は、清潔なお体であること、清潔な着衣を身につけておられること、陰部がおおわれていること(プライバシーの保護)が基本的な考え方です。

身支度や容姿の整え方などの具体策は、病棟に一任し、それぞれの病棟に合った方法をとられることが望ましいと思います。
病院全体として標準化を望むあまり基準を具体化しすぎると、実際に病棟によっては実践できないことが起こります。
例えば、何をお着せするかということ一つをとっても、洋服を持参されていることもあれば、用意の無いこともあります。
お化粧も、ご家族と一緒に余裕をもってできる場合もあれば、ご家族の心情的や患者さんのお体の状態等から、それどころではない状況もあります。

各病棟では、過去のご逝去された患者さんの事例を基に、ご家族の立場に立って、 具体的なお着替えやお顔の整え方などの方法を十分話し合われて決められてはいかがでしょうか。
その際の注意点は、病棟職員全員が実践可能な範囲にとどめましょう。あまりハードルを高くせずに、決められることをお勧めします。

さて、本題に入りますが、死後処置は、医学書から、
(1)医療器具抜去後の手当て、(2)創傷の手当て、(3)身体の清拭、
(4)腔部の詰めもの、(5)嘔吐物・排泄物の処理、(6)着衣の装着(着替え)等、
死者に対する一連の手当てと身支度を総称して死後の処置としています。
死後処置業務は、感染を予防するというのが第1目的です。
感染予防対策上、(1)~(6)において看護技術が必要となります。
看護技術が必要だという理由は、一般人ができない医療分野の処置であるという点と、 搬送途中やご自宅へ帰られてから、医療器具抜去部や鼻・口からの体液・血液の流出が起こっているという点が挙げられます。

イギリス・ロンドンにあるノースミドルセックス病院では、
「血中ウイルス感染症院内感染予防対策マニュアル(HBV・HCV・HIVを含む)」の中で遺体の取扱い及び処置がマニュアル化されています。
ご存じのように医療において、『EBM(Evidence Based Medicine)とは、批判的に吟味された文献を基に、わが国の医療制度や今診ている患者の医療に合致し、その上で、患者の価値観と移行に合致した医療』のことです。
例えば、清拭時に消毒剤を使用することがありますが、何を使用するかということについて、根拠に基づいて行われているでしょうか。
「今まで、エタノールを使っていたから…」になっていませんか。消毒用エタノールは、厚生省監修ウイルス肝炎研究財団編「ウイルス肝炎感染対策ガイドライン」では、HBVには無効とされています。昔のままでは安全が損なわれるため、世界標準に照らし合わせ、最新情報に基づいて手技を改善する必要があります。 お亡くなりになられた方の尊厳は、言うまでもありません。と共に、生きている人々の安全への配慮を怠ってはなりません。

死後処置マニュアルを改善する場合、EBMに基づいた最新の処置技術が、病院全体として統一されることが今後の課題です。
入院患者さんへの交差感染と帰宅後の一般人の感染を予防することで安全は守られます。安全のためには、「標準予防策」と感染経路別予防対策の「接触感染予防策」の実施が必要不可欠です。

マニュアルを作成する場合等、「できない場合はこうする」「それでもできない場合はこうする」といったダブルスタンダードの記載は極力避けましょう。EU諸国の病院のポリシーマニュアルには、ダブルスタンダードの記載は少なく、ダブルスタンダードの記載を行うと一番下の対策までしかできず、永久にゴールに到達できないためとされています。また、本来の目的である感染予防対策のゴールが見えなくなってしまうため、単純にゴールを記載することが重要だとされています。

参考文献
「遺体に携わる人たちのための 感染予防対策および遺体の管理」
 ICHG研究会、医事出版社、2002年12月初版、2011年7月改訂第1刷

「歯科診療における 感染予防対策の手順とオーデット」
ICHG研究会、医歯薬出版、2010年9月初版


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